整う。大人バレエ|レッスンが終わったあと、心まで軽くなる理由

はじめる前に

バレエのレッスンを終えてスタジオを出た瞬間、外の空気がおいしく感じる。90分も身体を動かしたのに、来たときより身体が軽い——。これは、大人バレエを15年続けてきた私が、レッスンのたびに感じてきた感覚です。「運動したら疲れるはずでは?」と思いますよね。私も始める前はそうでした。でも実際は逆で、疲れた日のレッスンほど、帰り道の身体と心が軽いのです。そこでこの記事では、その理由を5つに分けてお伝えします。読み終えたとき、「私もこの帰り道を歩いてみたい」と感じてもらえたら嬉しいです。

理由① 90分かけて、呼吸が深くなっているから

まず、いちばん大きな理由がこれです。普段の私たちの呼吸は、思っている以上に浅くなっています。デスクワークで前かがみ、スマホをのぞき込んでうつむき姿勢。胸がつぶれた状態では、息を深く吸い込むスペースがありません。しかも、緊張したりイライラしたりするたびに、無意識に息を止めています。試しに今、片手を胸に、もう片方の手をお腹に当ててみてください。胸の手ばかりが小さく動いていませんか? それが「浅い呼吸」のサインです。つまり、多くの人は「浅い呼吸のまま」一日を過ごしているのです。ところがバレエのレッスンでは、音楽に合わせて、吸って、吐いて、その流れの中で身体を動かします。腕を上げながら、すっと吸う。 下ろしながら、ふわっと吐く。最初は先生に「呼吸を止めないで」と何度も言われます。それくらい、私たちは頑張ろうとすると息を止める癖がついているのですね。

でも、姿勢が整って胸まわりが開くと、息の入るスペースそのものが広がります。音楽がゆったりした曲に変わると、呼吸も自然とゆったりに。90分間、深い呼吸を「し続けた」身体。

これは、浅い呼吸で過ごした90分とは、まるで別ものです。深い呼吸には心身を落ち着かせる働きがあると言われますが、レッスン後の身体の軽さの正体は、まずこの呼吸にあると私は感じています。

猫背と呼吸の関係は、こちらの記事でも詳しく書いています → 40代50代の猫背は「背中を伸ばす」では変わらなかった理由

理由② スマホも、役割も、90分だけ手放しているから

考えてみると、現代の暮らしで「90分間、スマホに触らない時間」は、ほとんどありません。お風呂にまで持ち込む方もいるくらいですから、起きている間、私たちは常に通知と情報の中にいます。そしてもうひとつ。母として、妻として、仕事の顔として——私たちは一日中、何かの「役割」を着て過ごしています。でも、スタジオの中では違います。ロッカーにスマホをしまった瞬間から、通知の世界と切り離され、頭の中にあるのは「音楽」と「先生の声」と「自分の身体」だけになります。プリエで膝を曲げながら、夕飯の献立を考える余裕はありません(笑)。順番を覚えて、音に合わせて、鏡で確認して——それだけで頭はいっぱいです。だからレッスンが終わる頃には、頭の中はパソコンを再起動したあとのように、すっきり静かになっています。悩みが「解決」したわけではないのに「薄れて」いるのは、悩みから物理的に離れる時間を、久しぶりに持てたからなのかもしれません。

理由③ 姿勢が変わると、気分まで変わるから

猫背やスマホ首の記事の最後に、私は「姿勢が整うと、こころも少し整う」と書いてきました。今日はその理由を、じっくりお話しさせてください。

レッスンの90分間、繰り返し意識するのが「引き上げ」です。

頭のてっぺんから糸で吊られるように、すっと立つ——バレエの基本姿勢ですね。 (「引き上げ」って何?という方は、こちらで詳しく解説しています)面白いのは、レッスンが終わっても、この姿勢がしばらく「残る」ことです。

帰り道、ショーウィンドウに映る自分が、いつもより背が高く見える。 目線が、ほんの少し上がっている。 歩幅まで、心なしか大きくなっている。

うつむいて歩くときと、頭頂から伸びて歩くとき。 見えている景色も、湧いてくる気分も、不思議なくらい違います。

考えてみれば、当然かもしれません。うつむいて歩けば、視界に入るのはアスファルトばかり。顔を上げて歩けば、空も、街路樹も、行き交う人の表情も見えてきます。入ってくる情報の量と質が、まず違うのです。

そして、背中を丸めたまま前向きなことを考えるのは、実はけっこう難しい。 逆に、すっと伸びた姿勢で歩いていると、深刻な悩みが少しだけ小さく見えてくる。

姿勢と気分は、私たちが思っているよりずっと、つながっているようです。

理由④ 五感が、戻ってくるから

スタジオを出た瞬間の「外の空気、おいしい!」という感覚。

あれは、空気が変わったのではなく、受け取る側の感度が戻ったのだと思っています。

レッスン中、私たちは普段使っていない感覚をたくさん使います。

音楽を聴き分ける耳。ピアノの音の、どこで動き出すかを待つ集中。 バーの木の感触を確かめる手。 床を押す足の裏。土踏まずや指の一本一本まで、こんなに意識するのは一日のうちでこの時間だけです。 鏡の中の自分の輪郭を捉える目。

普段の生活で受け取っているのは、画面越しの視覚情報がほとんど。それ以外の感覚は、いわば「省エネモード」で眠っています。

その眠っていた五感が、90分かけて、生身の感覚に戻っていく。

だから帰り道は、夜風の匂いに気づき、空の色に気づき、自分の足音に気づきます。

いつもと同じ道が、少しだけ違って見える。

「丁寧な暮らし」に憧れながら、忙しくてなかなか実現できない——そんな方こそ、この感覚を味わってほしいと思います。暮らしを変えなくても、感度が戻れば、いつもの暮らしが少し丁寧に感じられるのです。

これも、レッスンがくれる「おまけ」のひとつです。

理由⑤ 「できたこと」を、ひとつ持って帰れるから

大人バレエのレッスンは、うまくいかないことだらけです。先生と同じようには動けないし、順番はすぐ忘れるし、鏡の中の自分は理想とほど遠い。それでも、帰り道の気分がいいのはなぜでしょう。それは、90分の中に必ず、小さな「できた」があるからです。先週より、プリエが少し深くなった。 今日は一度だけ、ふらつかずに立てた。 ずっと分からなかった先生の注意が、一瞬だけ「あ、これか」と腑に落ちた。 先生の「そう、それ!」が、一回もらえた。どんなに小さくても、「先週の自分になかったもの」をひとつ持って帰れる。大人になると、日常でこういう感覚を味わう機会は、意外と少ないものです。仕事も家事も「できて当たり前」の世界で、誰かが成長を見ていてくれるわけでもありません。でもバレエには、「できるようになっていく自分」を毎週定点観測できる場所という一面があります。だから、「また来週も来よう」と思えるのです。義務だからではなく、来週の自分に、また小さな「できた」を渡してあげたいから。ダイエットや筋トレが「我慢の積み重ね」だとしたら、大人バレエは「できたの積み重ね」。続けるための燃料が、そもそも違うのだと思います。

レッスン前後で、こんなに変わる

ここまでの5つの理由を、レッスン前後の変化としてまとめてみます。

レッスン前 レッスン後
呼吸 浅く、速い 深く、ゆったり
頭の中 やること・悩みでいっぱい 静かで、すっきり
姿勢 うつむき気味 頭頂から、すっと
五感 画面情報ばかり 風・音・匂いに気づく
気分 「今日も疲れた」 「また来週も来よう」

もちろん、毎回100点の変化があるわけではありません。身体が重い日も、うまくいかなくて悔しい日もあります。それでも、この表の「右側」に少しでも近づいて帰れることが、レッスンを続けるいちばんの理由になっています。

正直に言うと、「行くまで」がいちばん億劫です

ここまで、レッスン後の心地よさをお伝えしてきましたが、ひとつだけ正直に白状します。行くまでは、億劫です(笑)。仕事を終えて、一度ソファに座ってしまった日。 外は雨で、家はあたたかい日。「今日くらい、休んでもいいんじゃない?」という悪魔のささやきは、今でも普通に聞こえてきます。

でも、面白いデータが自分の中にあります。

「億劫だったけど行った日」の帰り道に、「行かなければよかった」と思ったことが、ほとんどないのです。むしろ、気分が乗らなかった日ほど、帰り道の軽さがはっきり分かります。行く前と後の差が大きいからです。だから私は、迷った日はこう考えることにしています。

「今、決めなくていい。とりあえず、レッスンバッグだけ持って外に出よう」

玄関を出てしまえば、あとは身体が運んでくれます。そして90分後には、あの夜風が待っています。これから始める方も、きっと同じ壁に出会います。そのときは思い出してください。億劫さは「行かない理由」ではなく、通過点。続けている人はみんな、億劫さと仲良く付き合いながら通っています。

「整った感覚」を長持ちさせる、帰り道の小さなコツ

せっかく整った心と身体。できれば長持ちさせたいですよね。私が実践している、帰り道の小さなコツを4つご紹介します。

① スマホは、家に着くまで開かない スタジオを出てすぐ通知をチェックすると、せっかく静かになった頭に、一気に情報が流れ込みます。帰り道の間だけは、通知の世界に戻らない。これだけで「整った時間」が30分延長されます。

② ひと駅ぶん、または少し遠回りして歩く 引き上がった姿勢と深い呼吸のまま歩く時間は、レッスンの余韻をいちばん味わえる時間です。夜風と足音を楽しみながら、ゆっくりと。

③ 帰宅後は、湯船にゆっくり浸かる 動かした身体をシャワーだけで済ませるのは、少しもったいない。湯船で温めてあげると、心地よい疲れがさらにほどけて、その夜の眠りが変わります。レッスンの日は「お風呂もセット」と決めておくのがおすすめです。

④ 寝る前に、今日の「できた」をひとつだけ思い出す ノートに書かなくても大丈夫。布団の中で「今日はあれができたな」とひとつ思い出すだけで、翌週のレッスンがまた楽しみになります。

よくある質問

Q. 運動が苦手でも、この「軽さ」は味わえますか?

味わえます。この記事の5つの理由を見返してみてください。上手に踊れることが条件のものは、ひとつもありません。呼吸も、無心の時間も、姿勢も、初回のレッスンから誰にでも起こることです。むしろ運動が苦手な方ほど、「身体を動かしたのに心地いい」という経験そのものが新鮮で、変化を大きく感じられるかもしれません。

Q. 本当に疲れないのですか?

正直に言うと、身体は疲れます(特に翌日の筋肉痛!)。でもそれは、鉛のように重い「消耗した疲れ」ではなく、お風呂と眠りでほどけていく「心地よい疲れ」です。疲れの量ではなく、質が違うのです。

Q. 仕事でクタクタの日は、休んだほうがいいですか?

体調が悪い日は、もちろん無理は禁物です。ただ、「気持ちが疲れている日」に関しては、思い切って行ってみると、帰り道に「行ってよかった」と思えることが多いです。疲れの原因が頭の中にある日ほど、90分の「強制的に今ここ」が効きます。

Q. 朝のレッスンと夜のレッスン、どちらがおすすめですか?

どちらにも良さがあります。夜のレッスンは、この記事で書いたように「一日のモヤモヤをリセットして帰る」効果が抜群です。一方、朝のレッスンは、整った姿勢と呼吸のまま一日を始められるのが魅力で、その日一日の気分が違ってきます。生活リズムに合わせて選んで大丈夫ですが、「疲れをほどきたい」方には夜を、「良い一日を作りたい」方には朝を、私はおすすめしています。

Q. 週1回でも意味がありますか?

あります。むしろ大人は週1回がちょうどいい、と私は思っています。7日のうち1日、自分を整える日がある。それだけで、残りの6日の過ごし方が少しずつ変わっていきます。

まとめ|バレエは「整う時間」を持つこと

大人バレエというと、「今さら踊れるようになるの?」と思われがちです。でも、続けてみて分かったのは、大人バレエの本当の価値は、上手に踊れることの手前にあるということ。深い呼吸。 役割を手放す90分。 すっと伸びた姿勢。 戻ってくる五感。 小さな「できた」。この5つを、週に一度、自分に手渡してあげる時間——それが大人バレエです。だからもし、あなたが今、「踊れるかな?」と不安で足踏みしているなら、問いを少しだけ変えてみてください。
「私も、整う時間を持ってみたい?」答えがイエスなら、もう十分です。最初の一歩は、体験レッスンの予約でなくてもかまいません。近所のスタジオを検索してみる。レッスンの時間帯を眺めてみる。「この曜日なら通えるかも」と想像してみる——それだけで、もう始まっています。帰り道の夜風は、初回のレッスン日から待っていてくれますよ。

この記事を書いた人

40歳でバレエを未経験からスタートし、15年間レッスンを続けてきた会社員。通算7回の発表会に出演し、トウシューズで舞台に立つという夢を叶えました。スポーツ整形外科への通院経験も踏まえながら、バレエを続ける中で感じた体の悩みや向き合い方を発信しています。飾らないリアルな体験を通して、これからバレエを始める方や、レッスンを続けている方へ役立つ情報をお届けしています。

あわせて読みたい

※この記事は個人の体験にもとづくものです。感じ方には個人差があります。

コメント

タイトルとURLをコピーしました